判断基準は経験とともに積み重なっていく。しかし、それが次の判断を正しくしてくれるとは限らない。WEB制作の現場で感じる「判断が鈍る瞬間」と、その理由について考える。
判断基準は、経験とともに増えていきます。
失敗した理由、うまくいった要因、過去に評価された選択。
それらは整理され、「次はこう判断しよう」という基準として蓄積されていきます。
一見すると、それはとても健全な成長のように見えます。
判断に迷わなくなり、決断も早くなる。
しかし、実務の現場にいると、別の違和感にぶつかることがあります。
過去の判断基準は、次の判断を「楽」にしてくれます。
考える手間を減らし、選択肢を素早く絞り込めるからです。
ただし、その「楽さ」は、正しさとは別の話です。
過去に通用した判断基準が、今の状況にも当てはまるとは限らない。
それでも人は、慣れた基準に寄りかかってしまいます。
判断基準があることで、
「今回は例外かもしれない」
「前提が違う気がする」
そんな小さな違和感を見過ごしてしまうことがあるのです。
判断基準は、未来のために作られたものではありません。
ほとんどの場合、過去の状況を説明するために生まれます。
あの時はこうだった。
だからこの判断は正しかった。
その説明が積み重なり、「基準」と呼ばれる形に整えられていきます。
つまり判断基準とは、過去を納得するための構造でもある。
WEB制作の現場でも同じです。
成果が出たサイトの構成、評価された導線、うまくいった表現。
それらは次の案件で参照され、判断を支える材料になります。
ただし、クライアントの状況、事業フェーズ、社内体制が変われば、
同じ判断基準が最適とは限りません。
判断力が高い人は、判断基準をたくさん持っている人ではありません。
むしろ、基準を一度疑える人です。
この基準は、今も有効だろうか。
そもそも、今回の前提条件は何か。
過去と違う点はどこにあるのか。
そうした問いを立て直す力が、判断力です。
判断基準は道具であって、答えではありません。
制作を依頼する側にとって、本当に重要なのは、
「どんな判断基準を持っているか」よりも、
「その基準をどう扱う人か」なのだと思います。
判断基準に忠実な人は、安心感があります。
しかし、想定外の状況では動けなくなることもある。
一方で、基準を扱う人は、
立ち止まり、前提を確認し、必要であれば基準そのものを組み替えます。
WEBサイトは、作って終わりではありません。
公開後、環境が変わり、事業が動き、役割も変化していきます。
だからこそ、
最初の制作段階で「正しい答え」を出すことよりも、
判断し続けられる設計が必要になります。
判断基準は、積み重なっていきます。
しかし判断力は、自動では育ちません。
その違いを意識できるかどうか。
そこに、制作の質の分かれ目があるように感じています。